北海道炭鉱研究会 羽幌炭鉱支部

朔北のヤマ 羽幌炭鉱

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)2面①

『坑内の増出炭を支える力 それはすべての坑外戦場である(写真と文 早瀨担当)』

<写真>診療所事務室で語る看護婦さん達

『往診に行くと病院がいない -患者がけろりとしている 天使のいる診療所』

兎角用のない者は病院をのぞくべきではなさそうだ。子供ならぬ大人でさえ得体の知れぬ小道具が目については悪寒を感ぜずにはいられない。とは云え御用のむきがあれば已むを得ない、たまたま記者はくづれ易い空模様を気にしながら診療所を訪れ白衣の乙女の胸にぎこちなく聴診器の手を差しのべてそのこ動を聴いて見ると。

先づ婦長さんは「私は約二年こゝに勤めて居りますが、今年のように忙がしかつたことはありません。初夏から(10文字読み取れず)肺炎が流行して、多い日で二百五十人近くの外来患者があり医師も看護婦も夜遅く迄体を休めるいとまもありませんでした。」

内科の佐藤さんは「七八月頃は大部皆さんもやせたようです。私も注射室にいて一日に百人以上も注射をしなければならないのですから打たれる人よりも打つ方が泣きたくなつてしまいます。でも此の頃は一寸手がすき専ら所内清掃に追われています。」

次に手術に立会つた場合の気持を一寸「今年になり相当大きな手術も度々ありましたがさ程嫌な感じを受けないのも、つまり職業意識とでも云いましようか。」

では話題をかえて「一般へのお願いは沢山ありますが、公休日の診察は急患でない限りなるべく遠慮して戴きたいと思います。公休日には入院患者の往診治療がありますし色々明日の準備に追われて居りますので……それから往診について-電話などで往診の依頼があり出向いて行きますと当の患者は留守であつたり、お話しの容態程でもなく元気な人もあり、中には往診を頼んだ覚えはないと云われ全く困る時も度々あります。患者さんは許す限りつとめて診療所へ連れて来て戴きたいと思います。」と異口同音に語つた。

看護婦さんの趣味は読書に映画、ダンスもまるつきりお嫌いではないらしい、それに昼寝なども趣味のなかですかな。

<写真>細い心使いも必要なところ 本坑操込所〔繰込所〕

『礦員さんの気分が明るくなつた 細い心使いもいる 操込所〔繰込所〕』

「なんと云つても玄関受付口であるだけにラツシユ、アワーは流石に盛況を極めます」と係の龜井さんは語つていた。

丁度操込所を訪れた時は一番方の操込を終つたところなので、操業伝票の整理に大童であつた。しばらく手を休めてもらい二、三職場の様子を尋ねてみた。

「最近殊に感ずることは働くものゝ考えが変つて来たと云うことです。本当になごやかな明るさが日々の言語を交す中にもよく見出され、以前のような割り切れぬ感情のいざこざはなくなつて来ました。面白いことに私達は大勢の人達と接触するので各々の気性がとてもよく解ることです。この頃は礦員さんの数も増え仕事も忙がしくなつて来ましたが、係員三人でお互いに助け合つて居りますのですべてがスムースにはかどつて明朗にやつて居ります。仕事に向う礦員さんには、その出足が大切であるだけに努めて気を付け応対しています。」と、仲々細心の心使いがされている。

「私達のつとめは一日中机上の仕事に追われているので精神的にも大部疲労しますがまあ仕事のない方よりもいゝですよ、仕事によつて疲れも忘れるといつた態ですかね、唯操業伝票に就いてお願いしたいことは姓名と番号をはつきり書いて貰いたいことです。不明瞭な伝票の整理は予想外に手間取るものでしてね。」と色々職場によつて苦労も異りまた多いことだと記者は教えられた。

<写真>エンドレス・カーブ番

『隠居仕事と思うまいぞ エンドレス・カーブ番』

「カーブ番は決して隠居仕事ではありませんぞ。」陰の力をま探り歩いている記者は石炭輸送の一助を担うカーブ番の番舎を訪れた。

昇り降りの炭車に余念なく制動(クリツプ締め)をかけている八号カーブの野口留太郎さん(四十九才)に一寸聞いてみよう。

「私はかれこれ十年この番を勤めておりますが本職の豆腐屋よりもものが固いだけに骨も折れますよ。なに見ていると楽なようですが仲々責任があるだけに精神的に疲れます。何しろ吾々が事故を起すと坑内にも選炭場などにも大した迷惑がかかりますからね。」と責任の程を……空車のお伴をして更に上つて九号カーブ番をあづかつている渡邊鐵太郎さん(五十一才)に聞くと「七年半になりますよこの職をあづかつてから……。来る日も来る日もこん棒でクリツプ締めをやつていますが、最近は割合に楽になりましたよ。二、三年前ですと始終トロがヒコーキ(ビンがゆるみ暴走することらしい)して難儀をしましたよ。それにレールが悪くバツクするし、本当に今はこれがないだけに助かります。カーブ番は極度の労働をしないので冬はとても体が冷えてゆるくないですよ。」と毛皮のチヨツキを見せて呉れた。カーブ番をあづかつている人は凡そ年長者で長年の経験を積んだ責任感の強い人達が多いと聞いて心強く感じた。