北海道炭鉱研究会 羽幌炭鉱支部

朔北のヤマ 羽幌炭鉱

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)3面①

『機関車の上は暖くないですよ 終車の汽笛をきくまで眠れぬ 機関庫』

<写真>

積雪が日増に増していく今日この頃築炭鉄道機関庫では半歳の休養をとつていたラツセル車を引き出しその整備に忙がしい。

庫内勤務の越澤さんは「開礦当時は現在のラツセル車もありませんでしたので機関車を三台連結して除雪に当つたこともありましたが毎年雪には悩まされています。」

「雪と云えば思い出しますが昨年の大晦日は大変な吹雪で列車も運休をよぎなくされ、困つたことには羽幌方面から出稼ぎに来ていた人達でした。兎に角時期が時期でしたので『家でゆつくりお正月を迎えよう』と楽しみにしていた人達だけにその迷惑も甚しかつたことゝ思います。」と機関手の鈴木さんは気毒そうだつた。

「苦労は沢山ありますが…そうですね。時々人から-機関車に乗車しているととても暖かいでしよう-なんて云われることがありますが、本当に乗務した人でないと分りませんが暖まるどころか寒くて閉口しますよ。水滴でふんどしまでずぶ濡れになり釜前でさえも軍手がしばれる程ですから御想像にまかせます。定時運転、無事故をモツトーとしている吾々は濡れた衣類も着替えるいとまもなく直ぐ又整備作業などにかゝらねばならない時もこれからの時期には多いことでしよう。それから吾々が何時も『発車前になつて機関車が車庫から出て来ないがどうしたのか』と質問されるのですが到着した列車は次の発車迄に水の補給、石炭投積、火床整備注油などの点検整備が行われているのですから非常に苦労しているわけです。この点理解して戴きたいと思います。定時の勤めが終り帰宅して来ましても終車の汽笛が聞えるまでは本当にくつろげないということも医師が重患をきづかう気持と同様だと思います。」と安藤助役は語つていた。

検車係の深町さんも「今年は暖冬異変とでも云いましょうか、例年に比べて割合に暖かですし雪も少いので大変助かりますが、兎に角冬期は我々の苦痛のたねが多く皆も苦労をします。」たゆまぬ石炭輸送の努力と労苦がこゝでもしのばれ『共に働き共に生きよう』の職場モツトーにふさわしく健斗が続けられている。

<写真>

『通話はなるべく短く-そして終話信号を 女護ケ島 交換室』

数多い職場の中でもおそらく『女だけの職場』は交換台だけであろう。云わば紅一色と云うところだが、勤務は他の現場と同様に楽でもなさそうだ。そこで記者は交換嬢に敬意を表そうと、せわしそうにプラグを操作する音、発電信号機の摩擦音などさまざまな交響楽ならぬ狂騒音の中に交換台を訪れた。

「丁度今時分は時間的に少し楽になつて来たところですが、朝八時から十時頃までとお昼の二時から四時頃まではとても混みます。」とヂエスチュアーと共に説明して呉れた。「交換台でのお勤めは大変神経を使う仕事なので疲労もしますし身体にも悪いと思いますのでお休みの時間はみなさんとピンポンなどして身体をこなします。」と水戸さんは語つていた。

「これは私達からのお願いですけれど冬季期間は自然と電話の利用度も多くなつて来ますので混み合い支障をきたすこともありますので用件は簡単に要領よく済まして戴きたいと思います。時折夜間に長時間に亘り電話をかけられる方もあり、しばしば他に迷惑をかけお小言も戴きますが、私達の未熟はつとめて研究し改めていきたいと思いますので皆さん方もよく理解し協力を頂ければスムースに運ぶことが出来ると思います。それから御面倒でも終話信号をお忘れなく。」と。

こんな談話を交している中にも間断なくプラグの操作は続けられている。十一組のプラグコートが皆の手となり足となつて結ばれているのだ。思うに電話というものは兎角便利なものである。

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)2面②

<写真>

『「修理工場でない-製作工場だ」と意気まく 修理工場』

活気のある職場といえば先づ修理工場があげられよう。なんと云つても金属を扱うだけに一寸やそつとの力量技倆では切り廻せないだろう。係長以下二十名の係員が親しみ合い助け合つて働いているのは本当に心強く感じさせられた。一寸邪魔して係長と二、三の人に話をうかがつてみると「修理工場なんて古くさい名前ですよ。現在では修理どころかすべて製作ですからね。職場名も製作工場とでも改めてほしいものです。」と仲々きびしい。

「苦労した仕事と云いますと忘れもしませんが七月から八月の下旬にかけて本坑十八のぼりの扇風機の据附けをした時ですが、運搬から据附けまでの皆の苦労は大したものでした。昼間はエンドレスが使えないので夜に全員動員して運搬作業に当つたのです。さてその次は山へのし上げるのにまた一苦労。十七のぼりの約五十度傾斜で八十米のコースを引上げたのですが、あんなスリルもめつたに味わえません。その時困つたことにはウルシかぶれが続出したことです。中でも岡本君はひどかつたがまあ皆よくやつて呉れました。」と佐藤さんや戸澤さんは云つていた。

「そうですね希望と云いますと休憩所と洗面所を早く設備して欲しいのです。それに困るのは各職場と違つて伝票を出せば直ぐに製作して貰えると思つてヂャンヂャン催促が来ることです。吾々の技術面の苦心もいさゝか考慮し理解して戴きたいものです。人員の補充もして欲しいと思います。」

鉄砲をとつては他のヒケをとらぬ佐藤さんやスキーヤーの戸澤さんも仕事になるといろいろな苦労があるようだ。

<写真>

『冬はスキーで断線修理 電工詰所』

暮近くともなればなんとなく気ぜわしいもの、各工事の先鋒をあづかるこの電工詰所の業務はまた格別のようだ。

たまたま多忙な仕事の余暇を見計つて樋口さんと二、三の電工さんに話しを聞くと「どこの職場も秋からはとても忙がしいと思いますが、電工詰所では何しろ仕事の幅が広いだけに終日きりきり舞をしています。雪が深くなつて動きがとれなくなる前に各外線の整備作業やら工事の配線作業やらで猫の手も借りたい程です。一番苦労した仕事といゝますと、去年の暮から正月にかけて苫前からの送電線が吹雪のため断線した時には夜つぴいてスキーばきで補修に行きあごを出しましたよ。」

「希望と云うよりお願いと言いますか、各職場で予め計画してここの詰所の手を借りる工事などはもう少し早目に連絡をとつて戴きたいと思いますね。それにこれは一寸無理かも知れませんが、突発的な作業に当り人員の補充を要する時なぞ直ぐにくり出せる定員以外の人員が欲しいですネ」と係長はもらしていた。」

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)2面①

『坑内の増出炭を支える力 それはすべての坑外戦場である(写真と文 早瀨担当)』

<写真>診療所事務室で語る看護婦さん達

『往診に行くと病院がいない -患者がけろりとしている 天使のいる診療所』

兎角用のない者は病院をのぞくべきではなさそうだ。子供ならぬ大人でさえ得体の知れぬ小道具が目については悪寒を感ぜずにはいられない。とは云え御用のむきがあれば已むを得ない、たまたま記者はくづれ易い空模様を気にしながら診療所を訪れ白衣の乙女の胸にぎこちなく聴診器の手を差しのべてそのこ動を聴いて見ると。

先づ婦長さんは「私は約二年こゝに勤めて居りますが、今年のように忙がしかつたことはありません。初夏から(10文字読み取れず)肺炎が流行して、多い日で二百五十人近くの外来患者があり医師も看護婦も夜遅く迄体を休めるいとまもありませんでした。」

内科の佐藤さんは「七八月頃は大部皆さんもやせたようです。私も注射室にいて一日に百人以上も注射をしなければならないのですから打たれる人よりも打つ方が泣きたくなつてしまいます。でも此の頃は一寸手がすき専ら所内清掃に追われています。」

次に手術に立会つた場合の気持を一寸「今年になり相当大きな手術も度々ありましたがさ程嫌な感じを受けないのも、つまり職業意識とでも云いましようか。」

では話題をかえて「一般へのお願いは沢山ありますが、公休日の診察は急患でない限りなるべく遠慮して戴きたいと思います。公休日には入院患者の往診治療がありますし色々明日の準備に追われて居りますので……それから往診について-電話などで往診の依頼があり出向いて行きますと当の患者は留守であつたり、お話しの容態程でもなく元気な人もあり、中には往診を頼んだ覚えはないと云われ全く困る時も度々あります。患者さんは許す限りつとめて診療所へ連れて来て戴きたいと思います。」と異口同音に語つた。

看護婦さんの趣味は読書に映画、ダンスもまるつきりお嫌いではないらしい、それに昼寝なども趣味のなかですかな。

<写真>細い心使いも必要なところ 本坑操込所〔繰込所〕

『礦員さんの気分が明るくなつた 細い心使いもいる 操込所〔繰込所〕』

「なんと云つても玄関受付口であるだけにラツシユ、アワーは流石に盛況を極めます」と係の龜井さんは語つていた。

丁度操込所を訪れた時は一番方の操込を終つたところなので、操業伝票の整理に大童であつた。しばらく手を休めてもらい二、三職場の様子を尋ねてみた。

「最近殊に感ずることは働くものゝ考えが変つて来たと云うことです。本当になごやかな明るさが日々の言語を交す中にもよく見出され、以前のような割り切れぬ感情のいざこざはなくなつて来ました。面白いことに私達は大勢の人達と接触するので各々の気性がとてもよく解ることです。この頃は礦員さんの数も増え仕事も忙がしくなつて来ましたが、係員三人でお互いに助け合つて居りますのですべてがスムースにはかどつて明朗にやつて居ります。仕事に向う礦員さんには、その出足が大切であるだけに努めて気を付け応対しています。」と、仲々細心の心使いがされている。

「私達のつとめは一日中机上の仕事に追われているので精神的にも大部疲労しますがまあ仕事のない方よりもいゝですよ、仕事によつて疲れも忘れるといつた態ですかね、唯操業伝票に就いてお願いしたいことは姓名と番号をはつきり書いて貰いたいことです。不明瞭な伝票の整理は予想外に手間取るものでしてね。」と色々職場によつて苦労も異りまた多いことだと記者は教えられた。

<写真>エンドレス・カーブ番

『隠居仕事と思うまいぞ エンドレス・カーブ番』

「カーブ番は決して隠居仕事ではありませんぞ。」陰の力をま探り歩いている記者は石炭輸送の一助を担うカーブ番の番舎を訪れた。

昇り降りの炭車に余念なく制動(クリツプ締め)をかけている八号カーブの野口留太郎さん(四十九才)に一寸聞いてみよう。

「私はかれこれ十年この番を勤めておりますが本職の豆腐屋よりもものが固いだけに骨も折れますよ。なに見ていると楽なようですが仲々責任があるだけに精神的に疲れます。何しろ吾々が事故を起すと坑内にも選炭場などにも大した迷惑がかかりますからね。」と責任の程を……空車のお伴をして更に上つて九号カーブ番をあづかつている渡邊鐵太郎さん(五十一才)に聞くと「七年半になりますよこの職をあづかつてから……。来る日も来る日もこん棒でクリツプ締めをやつていますが、最近は割合に楽になりましたよ。二、三年前ですと始終トロがヒコーキ(ビンがゆるみ暴走することらしい)して難儀をしましたよ。それにレールが悪くバツクするし、本当に今はこれがないだけに助かります。カーブ番は極度の労働をしないので冬はとても体が冷えてゆるくないですよ。」と毛皮のチヨツキを見せて呉れた。カーブ番をあづかつている人は凡そ年長者で長年の経験を積んだ責任感の強い人達が多いと聞いて心強く感じた。

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)1面②

『人事往来』

-十一月-

○六日常務〔朝比奈敬三〕来山○八日開発局太田技官交通調査のため来山○十一日通産局統計課長佐藤氏統計事務調査のため○十三日留萌林務署長外二名栄坑の件にて来山○十五日通産局鉱業試験所技官防爆機器下検査のため来山○十七日常務出札○十九日羽幌警察署長丹羽氏新任挨拶のため来山○二十日町田専務〔町田叡光〕来山○廿九日国税庁留萌税務署長来山

-十二月-

○一日留萌保健所長診療所落成祝のため来山○二日町田専務退山○八日社長〔岡新六〕来山、曙営林署分担区員二名坑木払下げの件にて来山、救護隊岩見沢支所平田技官外三名検定器の件にて来山○十一日町田専務島内常務〔嶋内義治〕来山朝比奈常務出札○十三日社長島内常務出旭、毎日新聞社吉川記者北日新聞社松山記者記事取材のため来山○十四日社長島内常務旭川より帰山、釧路方面刑事部夏井氏事務連絡のため来山○二十三日社長帰京

『11月出炭実績』

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)1面『11月出炭実績』

『十月以降新賃金 協定成る』

十月以降新賃金問題は去る二十五日より全山注視の裡に交渉が重ねられていたが十日円満に協定が成立した。

一、十月以降新賃金

 坑内夫 五三〇円(税込)

 坑外夫 三一六円(税込)

 家族給 四〇〇円(税込)

請負者能率は四-九実績の九〇%とする。

二、産生賞与

 基準一〇、五〇〇トンの場合、二五〇円

 一%増す毎に二五円で一、〇〇〇円を限度とする。

『火薬取扱技術優秀 築別礦表彰さる』

去る十一月一日からの道庁主催火薬危害予防週間に際し築別礦は火薬による死傷、盗難等の事故が皆無のところからその取扱技術が優秀であると認められ表彰されたものである。

築別礦の火薬取扱責任者及び主任者は常務である朝比奈敬三氏であり乙種取扱責任者は本社調査課山本本三三九係員である。

尚今回選衡の対象となつた団体は火薬の製造業、販売業、その業者、炭礦、礦山、土木開拓等の一八〇団体で表彰されたものはその中の一五団体で炭礦としては道内に九五炭礦中五つの炭礦が表彰されたものである。

『第二回 保安技術職員 国家試験』

第二回保安技術職員国家試験合格者発表通達がこの程鉱山保安試験審査会より発表された。

◎甲種坑内保安係員

澁谷俊次、戸澤金悦、荒關義雄、佐藤政良、佐々木要作、三浦功、草野宇一、山崎國治、西村靖夫、髙野昭、齋藤正雄、西田信一、小林中、福井好一、齋藤晋

◎甲種発破係員

澁谷俊次、佐藤政良、佐々木要作、三浦功、相馬吉春、山崎國治、西村靖夫、髙野昭、齋藤正雄、山田定市、西田信一、渡邊秀治、柳澤佐一郎

◎甲種電気保安係員

島田勝美、平岩武市、川端俊夫、加古末松

◎機械保安係員

平岩武市、竹村豊治、谷藤一二三、鎌田一、澤田實、長谷川勝一、西原三夫、畠山正一

◎坑外保安係員

砂田次郎、伊藤達、吉川喜一、畠山正一、渡邊久見

◎火薬係員

佐々木利夫、淸野慶作、中谷千秋、渡邊久見

◎安全灯係員

淸野慶作、中谷千秋、村中勇

◎熔接係員

野上彌一郎、畠山正一

第二回 上級保安技術職員 国家試験合格者

本社 水上三郎

羽幌礦 加藤希良

『エンドレス』

晦日が近づくと毎年繰返して思う。

「今年はどうであつたか」と。良かつたと思う人良くなかつたと思う人さまざまであろう。

炭礦として思う時、昨年に比し概して良くなつたことは間違いないことである。

賞与、越年資金に関してもパルプや金へん景気の事業を除いて炭礦は悪い方とは言えない。ストだハンストだと騒いでも賃金の未払すらある産業もある。

社会経済の動きは人間の意志に自由になる部分と人間の意見の如何ともし難い部分がある。総ての労働者が最景気をうたつているパルプ並みの給与を求めてもそれは不可能である。たまたまパルプに属している者が運が良かつたと言うことであろう。然し永久にそうであることが出来ないのは一昨年の糸へん景気が証明している。

人間の意志以上のものに対して抗してもそれは徒労である。

二十六年は築炭は漸く堅実な歩みに入つた第一年目であつた。二十七年は飛躍の年であらしめたい。

かくあらしめるためには今年をそして昨年を反省して見ることが無意味では無い。

築炭ニュース 第28号(昭和26年12月15日)1面①

発行所

北海道天塩国苫前郡羽幌町築別御料上流(電話羽幌15番) 羽幌炭礦鉄道株式会社

印刷人 金子長次

『両礦の出炭益々快調 年末の大採炭に拍車』

昭和二十六年一月以降連月出炭目標突破の記録を確保しつゝ本年最終月に入つた築別礦業所は昭和二十六年度有終の美を飾るべく年末採炭に拍車をかけているが出炭状況は羽幌礦業所と共に依然好調で十四日現在では

築別礦業所

月目標・一三、五三〇トン

十四日目標・六、二四〇トン

十四日実績・六、一三六トン

九八、三%

羽幌礦業所

月目標・九、二八〇トン

十四日目標・四、二八三トン

十四日実績・四、七三一トン

一一〇、五%

で下旬の追込みに底力が発揮されるとして両礦の目標突破は確実視されている。

一三、五三〇トン目標が突破せば羽幌炭礦鉄道株式会社として最高出炭記録であり築別礦業所としては開礦以来の記録となり又十二ケ月連続目標突破の輝やかしい記録が樹立され「躍進!築炭」の貫録を遺憾なく発揮されるもので各現場は非常な張りきりかたである。

<写真>支繰夫の坑道維持作業-築別本坑-

『築炭大立入開さく 八五米進む』

既報築別本坑主要運搬坑道大竪入は去る十月一日より開さくを開始してより連日ハツパの轟音が炭礦地区をふるわして大工事の進捗を想わせている。荒漠たる山間であつた場所は工事に要する諸施設が立並び、工事進行に伴い日々急激に変貌しつゝある。

開さく当初は泥岩である為山全体が押して来るので、ずつたりして三十二米の予定砂岩に達する為に一ケ月を要した困難な作業で開さくに挑む従業員の労苦は並大抵ではなかつた。砂岩の開さくは一日二米五〇で二六日現在坑口より約八五米を進行中である。

今月下旬頃には六トン電車、ベルトローダーが到着する予定でこれがとりつけられた暁には一日約六米の能率で進捗される予定で昭和二十八年にまたがる大竪入工事は昼夜兼行完成へとたゆまぬ努力が続けられている。

『中島係長談』

大竪入堀進八五米、築別鉱業所将来の大動脈、大竪入は二六日現在堀進延八五米に達しました。坑外の諸設備の整備は完了し又例外なく猛威を振うであろう冬将軍に備えての防雪設備も完了、切羽は計画の砂岩に入り工事は順調に進捗しています。当初坑口付近は地質的悪条件に充分悩まされましたが技術陣の敢斗と綿密なる堀進計画の研討と相俟つて所定の砂岩に逢着しています。此の炭種は比格的硬質砂岩でありますが風化盤眼の危惧は全くありません。

本切羽に於て足尾レツグ(サポータ)の使用は好成績で現在はこの使用も能率化して穿孔作業は人員の縮減とビツトの研究によつて、穿孔時間の短縮と併せて穿孔作業のエネルギー節減に役立つて居ます。尚十二月下旬には研積込機(ベルトローダー)及六〇蓄電車が到着する予定でダンプカーの使用と共に研処理作業が能率化せられ研処理作業の時間及労力の大幅な能率化が期待されています。

機械設備と技術習熟により一〇尺×八尺堀進一日六米の進行を可能にする為発破規格の設定及研処理の合理化等鋭意研究中であります。係員一同一日も早く大動脈を完成し、大運搬坑道から続々と黒ダイヤの山がはき出される日を楽しみに頑張つています。

<写真>大竪入隧道にとり組む掘進夫 12月26日現在 坑道開さく85米を進行した

築炭ニュース 第26号(昭和26年10月15日)2面②

『主婦会の意見 公休返上で立派な会舘を! 中村カツさん談』

現在の会舘で特に感じさせられますのは場内が狭いのと設備が悪いので相当混雑していることです。子供など連れていきますと特に便所行きが思いやられます。お便所の完備と椅子席の設備をして下駄ばきでもはいれるよう考えて欲しいものです。

これは観覧者に望みたいのですが場内での紙きれや他のごみを散らかさないように何時も綺麗な所で気持よく観覧したいものです。

いろいろ苦情がましいことを述べましたがお隣りの羽幌二坑のように慰安所は私達の努力と意気込みで会社の方とも協力して公休出勤を返上してもらつても是非立派なものを建てゝ頂きたいと思つております。

『主婦会の意見 冬の会舘が思いやられる 上野花子さん談』

場内の混雑を考えますと子供達の同伴が気づかわれます。冬季間など防寒設備が悪いために皆さんは沢山の防寒着を持ち込まれるので歩行が困難であるのも悩みのたねです。

演劇などの舞台装置の不備やら映写室の不完全から雑音が多く、また撮影技師の未熟からか始終フイルムが切れたりして不愉快です。それに観覧者の不道徳から座席の前どりは殊に迷惑ですからお互いに注意しなければならないと思います。上映日は週四、五回是非やつて頂きたいまた場内に飲料水位は置いてもらいたいと思います。

『ある人の意見 熱意と奉仕でぜひ会舘を!』

(A)私達の職場や家庭でもかねてより話題にのぼつていましたが私達の何よりの娯楽施設である会舘だけにまたその関心も大きいことゝ思います。したがつて現在の設備装置の不完全は私達を充分に満足させて呉れないばかりか場内の雑沓に不快を催さざるを得ない現状は全く遺憾に思います。

数多い観覧者の中にはたまたま不道徳な人も居りますがこれと云ふのも設備の悪いところから已むを得ずと云ふ点からきていると思います。本当に楽しめる会舘、明日への原動力を与えて呉れる真の慰安所である会舘を是非私達の熱意と奉仕により建てたいと思います。会舘は私達の手でと云ふ心意気を皆さんと共に普及しまた努力致したいと思つて居ります。

(B)会舘への願望は誰でも同じでしよう。建つまで待てない程切つなく感じている現在、皆んなで建てる外はないと思います。足なみを揃えて羽幌二坑のように一日も早く実現したい。

『ある従業員の苦情』

築別炭礦も開礦十余年を迎えその間幾多の難事を克服して今日では出炭は勿論あらゆる面に飛躍的実績を挙げしかも対外的評判も頗る良しときいて欣びを共にする一人です。

しかしこれだけの山に最も必要な福利施設として明日への生気を養う唯一の娯楽場である会舘設備があの様な現状では全く憂うつになつてしまう。

出来得れば左記事項について早急善処方を切望します。

一、土足をぬいで上つて下さいとは実に非文明的だと思う。

今はどこへ行つても土足の儘で上られる様に改良している。実情に応ずる事も止むを得ないが、こゝはまるきり逆だ。係員が声を大にしてさけんでもおそらく無駄だと思う。

二、観覧席に通路がないので特に子供連のその不便さはこの上もない。子供は小便がしたくて泣きさけぶ、出るにも出られず、親は我慢しろとなだめるが無理なことで、すつたもんだで結局映画も安楽に観られず、どんな筋書で終つたかも解らないまゝ帰る始末。

三、空気ぬけがない。盛夏の候等はむし風呂にでも入つた様で死にものぐるいで観なければならない。

四、雨がボタボタ漏る。折角張替えた天井ベニヤ板が腐つて来ている。

五、座席の板張は夏はノミにいやと云う程喰われる、会舘のノミはエサに飢えているから少し位のDDTなどはききめがない。冬はつめたくてすわるのがおつくでならない、明日になるとお蔭で神経痛になやまされる。

六、玄関の入口が冬になると寒い、なんらかの措置を講じてほしい。

『出稼優良礦員番附

築炭ニュース 第26号(昭和26年10月15日)2面『出稼優良礦員番附

築炭ニュース 第26号(昭和26年10月15日)2面①

『これが会舘の実態 一般の意見をきく』

会舘〔築炭会館〕についての一般の輿論は現在の会舘では従業員とその家族が増えた現状では狭く、しかも設備が不完全なので少し位改造してもどうにもならない。板の間にぎつしり座つているので身動きも出来ず、一朝事故でも起きようものなら大変なことになる。天にも地にもこの築炭には会館で映画をみる位が唯一最大の慰安であるから是非とも完備された会舘がほしい-これが山全体の熱烈な希望であり、しかも福利厚生部面のゆるがせに出来ない問題として登場してきた。

会舘となれば建築基準法や興行場法の規定から簡易な構造の木造建物では今後許可されない。また山としてもどうせ新築するなら完備された永続性のある立派なものでなければならないだろうから、その建設費は二千万円は下るまいと見られる。

そこで会社も早急に具体化することは容易でない筈だろうから当然従業員の何等かの協力が必要だろうとの意見が大分に出てきているようである。

<写真>身動きも出来ずに映画をみる人々!

<写真>あゝ面白かつた! その後が大変だ。御持参の敷物をもつて-傘が間違えたよ。寝てしまつた弟をおんぶして。こゝから靴をはきたいけど会舘のおぢさんにおこられるからそれも出来ない-ハネた後には紙くづや喰かす、土くれが毎回ドラム缶で一杯も残つている。

『職組枷場氏の意見 汗の奉仕で殿堂を築こう-』

太陽の慈光から隔離された地下数百尺の坑内から一日の労働を終えて帰宅しひと風呂浴びて夕餉の銚子を傾けることも私達の憩でしよう。しかしながら夕食後一家たづさえて映画の観覧をたのしむのもまた格別です。

果して現状の会舘は私達を充分に楽しませて呉れているでしようか。場内の設備舞台装置はまだまだ不備不完全です。スピーカーから流れ出る美しいメロデー、やがてベルが開幕を伝える、次々に消えていく場内の照明は次第にスクリーンの映画に吸い込まれて椅子にもたれながら真にたのしむ夢のような慰安の一とき。これは現在の築炭にはほど遠い夢の殿堂でしようか。その夢は今着々と現実化されているのです。われわれの真に慰安を求めようとする意慾と汗の奉仕がこの夢を具体化させて呉れることゝ思います。

『労組委員長の意見 願望のまとである会舘を!』

炭礦住民の切実なるのぞみであつた上水道施設も着工せられまた主要運搬坑道の実現に明るい見通しを身近かに接する私達はこれら夢とばかり思い込んでいた難事業が現実化されつゝあるをみまして本当に心の温るのを覚えます。そこで身近かなものにもう一つ取り残された夢ならぬ慰安の殿堂のあることを忘れられない。

会舘の現状はあまりにも貧弱である。これを改築しなければならぬとは私だけの思いではなく少くも会舘で慰安を求めるすべての人の望みだと思います。この慰安により明日への力を養ふ多くの人の願いでもあると思います。

この慰安により明日への力を養ふ多くの人の願いでもあると思います。この願望を唯いたづらに放置してはいけないのです。そこでこの切実なる願望を具体化さすべく努めねばならないと思います。これは決して淡い夢ではないお互いの意気と奉仕が夢を実現へとみちびいて呉れるのではないでしようか。私は皆さんの意のある気持に訴えたい。熟慮をお願い致します。

『みどり会の意見 夢ならぬ憩の家を! 磯野彌生さん談』

会舘の現状につきまして日頃感じていることや希望を二、三申し上げさせて戴きたいと思います。

只今の会舘では無理からぬことゝは存じますが、入場の際各自の履物の不始末から種々の煩雑を眼にし、まゝ不快を感ずることがあります。下駄履きでも這入れることが出来たならば……。それに雨天などは殊に雨具の持込みやらで混雑をまぬがれ得ないことは遺憾に堪えません。また座席の改善要すれば椅子になれば結構に思います。私が特に切実に感じますのは非常口の不備不完全なところです。各地で再三繰返される火災事故を想います時その必要性を痛感させられます。

過日羽幌二坑に出張しました主人の話に依れば、二坑では羨やましいほどの会舘が皆様の努力と奉仕で建てられましたとか、決して真似るわけではありませんが私達の心意気と奉仕如何では近い将来夢ならぬ憩の家を建てられるのではないでしようか。